熱力学でシステム(系)を考えるとき、孤立系、閉鎖系、開放系、という3つの区分をする。系の区分は、外界とのエネルギーと物質のやりとりの有無により定義される。
孤立系:外界と物質・エネルギーのやりとりがない。
閉鎖系:外界とエネルギーのやりとりのみある。
開放系:外界と物質・エネルギーのやりとりがある。
となる。簡単には、地球全体をシステムとしてみた場合には、近似的には、閉鎖系とみなしても問題が生じないことが多い。つまり、地球外とは物質のやりとりは近似的にはないが、太陽からのエネルギーを受け取っているために、閉鎖系となる。しかし、地球を構成する部分的な要素、たとえば、流域を取り出してみた場合には、明らかに開放系であり、孤立系や閉鎖系とみなしてよい場合は、かなり限定的になると考えられる。たとえば、海洋で周囲を囲まれたひとつの島を系とみなした場合には、近似的には閉鎖系とみなしてよい場合もあるかもしれない。しかし、海を介して外から動植物が流れ着いたり、もっと積極的に移動してきたり、人間のように外部と活発な交易を行う存在を考えた場合には、島とて閉鎖系とみなすことは不適切な場合が多いかもしれない。そのため、おおむね、私たちが地球上の環境を構成するある系を対象として考える場合にも、その系のことは、開放系とみなすことが適切であると考えられる。
さらに開放系は、平衡開放系と非平衡開放系に区分される。私たちが環境の研究を進めるとき、現時点では、大抵の場合、平衡状態あるいは準平衡状態を仮定することが通常である。平衡状態とは、簡単に言えばつり合いがとれていることであり、熱的平衡、物質的平衡といったときには、それぞれ温度変化がないこと、物質の種類と総量に変化がないこと、である。ただし、たとえば、熱的平衡状態にあるときにも、系に流入するエネルギーと流出するエネルギーとが釣り合っていれば、正味温度変化はない。また物質量も、系への流入と流出とがつりあっていれば総量には変化がなく平衡状態となる。環境研究で現実に対象とする系の多くでは、考えている時間間隔の取り方や、実践的な目的の多くで、平衡状態を仮定しても無理がない場合は多い。一方、定義に厳密に従うとすると、ほぼすべての現象は厳密には、非平衡開放系、となる。したがって、真正面から正直に私たちが対象とする系をとらえようとすれば、非平衡開放系を取り扱う手法が必要となる。しかし残念ながら、現時点では、熱力学、および、統計力学の理論が盤石なのは、平衡系についてのみである。一方で、非線形科学や複雑系の科学が対象とし、理論構築が進行形なのがまさにこの非平衡系である。そのため、私たちは、この現状を見据えながら、研究を進めていく必要がある。
このように整理すると、状況は明るくないようにも思えるが、そうでもない。というのは、平衡系を考えるだけでもかなり多くのことがわかるし、現実には存在しないが、ある理想的な状態、つまりポテンシャルのような概念として平衡状態を想定することにより、現実の分析を進めることができるようになる。