熱力学的に系をとらえることは、地球環境問題を考えるときには、非常に重要な視座を与えてくれてきたと同時に、そこには限界もある。私たちが住む環境等のマクロな系をとりあつかうことが得意な熱力学は、非常に少数の変数しか取り扱わない。温度T、圧力P、体積V、物質量n、エントロピーSである。少数とは言え、これら5種類の相互に関係する変数は実に多様なふるまいを記述することができる。特に貢献が大きかったのは、エントロピーと生命との関係であろう。地球上のあらゆる生命活動は、周囲の環境と比較して物質が高濃度に集積したひとつの秩序が動的平衡状態をたもちながらある一定時間継続している状態であるため、そこには秩序、情報が発生する。そのため、系の内部は低エントロピーの状態が達成され、それと引き換えに、外部に高エントロピー(乱雑さ)を捨てつづけることで生命活動が維持される。このことを、地球環境問題にまで敷衍して、現代文明の在り方を大枠で批判する力を持ったことが熱力学的視点の最大の貢献と考える。しかし、このことは、私たちが組み込まれている社会制度、社会組織、自然環境の中で、私たちがどのように振舞えば、環境問題や地球環境問題に解決を与えてくれるのか、ということに関しては具体的な解を与えてくれない。もちろん、関係がないわけではなく、解を得るときの拘束条件を課すのが、熱力学的視点からの考察である。